xlab’s diary あやしい時代

感じたことを、感じたままに

30秒で読める「幸せの王子」(オスカー・ワイルド)

 

「幸せの王子」という名が付けられた一体の像がございました。

像は、広場に建てられた高い高い柱の上に据え付けられておりました。

 

全体を薄い金箔で覆われ、 その目にはサファイアが埋め込まれ、腰に帯びた剣の柄の先には大きなルビーが配され、その赤い輝きは遠くからでもよく見えたものです。

 

日を浴びて燦然と輝く王子は、私たちの象徴。

あれは「日御子」だと、皆で自慢しあったものでございました。

 

 ある晩、小さなツバメが南へと向かう途中、像の下で休むことにしました。

「あぁ、これは黄金のベッドルームだ!」

ずっと飛び続けていたツバメは、疲れて眠ろうとしました。

 

ところが、頭を翼の中に入れようとしたとたん、 大きな水の粒がツバメの上に落ちてきたのございます。

「何て不思議なんだ!」

ツバメは大きな声で叫びました。

 

 「空には雲一つなく、星はとてもくっきりと輝いている。

 それのなのに、雨が降っているなんて。」 

 すると・・・もう一滴落ちてきました。


不思議に思ったツバメは、ゆっくり自分の頭の上を見上げました。 
すると・・・どうでしょう。

 

ただの像であるはずの王子の両眼が、あろうことか涙でいっぱいになっていたのです。

その涙が金箔で覆われた王子の頬を伝って落ちてきたのでした。

 

「あなたはどなたですか」

 ツバメは尋ねると 

「私は幸福の王子だ」

 と、その像は答えました。


「どうして泣いているんですか」

 引き続き、ツバメは尋ねます。

 「こうして高いところから見下ろしていると、

 人間たちの愚かさ、浅ましさ、悲惨さ、儚さなどが全て見える。  

 私の心臓は鉛でできているけれど、それでも泣かずいられないのだ」

 

『えっ何だって! 

 中身は鉛だっていうのか・・・

 外見だけの紛い物じゃないか・・・』

 

ツバメは、胸中に去来する、疑問とも侮蔑ともいえる想いを抑えきれずにいました。

だけど、初対面の相手を罵倒するようなことはしたくなかったので、口には出さず、あくまで心の中にとどめたのです。

 

 

 

そして・・・

何だかんだがあって・・・

 

 

 

王子の像を覆っていた金箔も、両目のサファイヤも、剣の柄の先にはめ込まれたルビーも、全部なくなってしまいました。

王子が貧しい者たちに分け与えたからです。

 

その足元には、王子の依頼を受けて、懸命に貧しい者へと運んだツバメが一羽。

夜露に濡れながら、死んでおりました。

 

 


次の日、宰相が議員を引き連れて広場にやってまいりました。

像を見上げたときの宰相の驚きようといったら・・・

「なんじゃ、こりゃあぁぁぁあああ」(松田優作

 皆は像を見ようと近寄ってきました。

 

「これでは乞食と変わらんじゃないか」

 宰相が唸ります。

「外見が美しくないなら、何の役にも立たないぞ」

 普段は王子を崇めていたはずの議員たちは、みすぼらしい姿になったとたん、口々に罵倒し始めました。

 

宰相は、王子を即座に撤去させるよう、側近たちに命じました。

さらに、溶鉱炉で溶かしてし処分してしまうよう、付け加えたのです。

 

宰相は、おもむろに議員たちの方に振り組むと

「早々に、新たなる象徴を準備しなければならない」

 というや否や

「私は、やはりあの方が良かろうと思う」

 自分の傀儡の名を挙げました。

 

「反対です。

 その判断には従えません」

 反宰相派の議員たちは、大きな声で異を唱えます。

 それぞれの勢力は言い争い、とうとう取っ組み合いの喧嘩のような有様になってしまい、収拾がつかなくなってしました。

 

 

 

宰相派と反宰相派の攻防が続く中、鋳造所の監督が頭をひねっておりました。

 「この壊れた鉛の心臓、溶鉱炉の熱でも溶けないぞ・・・

 やむを得ん、廃棄物処理場に捨ててしまおう」

人間のありさまを悲しむ余り、二つに引き裂かれてしまった王子の 心臓は、哀れ、悪臭漂うゴミため送りに。

 

翌日、王子の壊れた心臓は、海辺のゴミ処理場に投棄されました。

ところが・・・どうでしょう。

投げ捨てられた心臓のすぐ隣には、あのツバメの死骸が横たわっていたのです。 

 

 


そのころ、天上界では、神が天使の一人に命じていました。

「あそこから、最も清らかなものを持ってきなさい」

天使は、王子の壊れた鉛の心臓、そして、その隣に横たわっていたツバメの死骸を選び、神の下へと送り届けました。

 
神は、天使に問います。

「なぜ、その二つを選んだのか」

天使は、答えます。

「この2つが、最も聖なる光を放っておりましたので」

 

神は、とても満足した様子で

「よく選んできた」

とおっしゃいました。

「彼らに天国の門は開かれた。

 永遠の命と永遠の喜びを与えよう。」